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7時間目 「東洋医学について」



 7時間目、今回は東洋医学についてお勉強しましょう。最近、いろいろな雑誌で東洋医学、ツボ、漢方という言葉をよく耳にします。しかし、その意味を理解して言っている人はどれくらいいるのでしょうか?以前、知り合いのお医者さんに東洋医学、ことに中国医学(中医学)って何?鍼って、お灸って、漢方って何?と聞かれました。私は思わず、「え!」と、ショックを受けたのを覚えています。それはさておき、私ども鍼灸師の養成学校においても中医学を教えてくれる学校は少ないという現状があります。日本の医療制度は、医師を頂点とする三角形の関係が成り立ちます。日本の医療そのものが西洋医学一本に絞られているのです。ですので、医師をはじめとして、漢方を扱う薬剤師、ツボを使用する鍼灸師の勉強する内容は西洋医学が中心なのです。
 現在、中医学を含めた東洋医学はもはやアジアのものだけではありません。アメリカでは国家予算により東洋医学などを含めた民間医療を研究し、数年前にオーストラリアで開催された鍼灸学会では世界各国から医師、鍼灸師が集まりました。しかし、参加者は西洋人ばかりだったそうです。それを見通した中国政府は、国家プロジェクトとして世界への鍼灸の普及に力を注いでいます。日本政府はというと、全人的治癒(*1)の道への可能性を秘める東洋医学、ことに鍼灸、大部分の漢方を国内の医療システムにさえ正規に取り入れようとしていません。世界各国では東洋医学、西洋医学が協力して患者様の「健康」を願い頑張っているのに残念で仕方ありません。
 東洋医学を扱うもの者として、ツボや漢方薬を使えば東洋医学(中医学)か?しっかりとした理論がなければ学問ではないと私は思います。東洋医学(中医学)が発祥して数千年。それが現在に生きている。であればきっと素晴らしいものであると信じ、毎日の治療を行なっております。難しい漢字が多くて大変かもしれませんが、わかりやすくお勉強しましょう。

 東洋医学とは、インド医学、アラビア医学、チベット医学、そして中国医学などの総称をいいますが、現在では鍼灸、漢方や気功などをあらわすことが多いようです。
 ここでは、当院の治療方針の基礎となっている中国医学(中医学)をご紹介いたします。  中医学とは、中国の伝統医学で、四千年以上もの時間をかけて中医薬学の理論と臨床治療方法を集大成した総合医学です。中医学の起源は数万年前にさかのぼります。中国で最も古い医学書『黄帝内経(こうていだいけい)』の中に、中医学の成り立ちが次のように記載されています。
「東方の地は海に近く、魚と塩を多く摂るため、でき物や腫れ物で病むことが多い。それで、鋭い石器で切開し、除去する外科療法が発達した。」
 「西方の地は山岳で、気候が激変しやすく、人々は衣服を着ずに毛布をまとって生活をしていた。脂肪太りとなり、邪気が内にこもるために内臓の病気が多く、煎じ薬を用いる治療法が発達した。」
 「北方の地は高原で、寒さが厳しく、人々は遊牧民で乳を主食としていた。そのために腹の張る病気が多く、灸療法が発達した。
 「南方の地は高温多湿の平野で、人々は酸をたしなみ、腑(はらわた)を食していた。そのために体表面に血行障害が起こり、手足が引きつれたり、しびれたりするので、体の表面に鍼治療を行う療法が発達した。」
 「中央部は湿気の多い平原で、いろいろな物を食べ、運動不足となって手足の力がなくなり、冷えやのぼせを生ずることが多かった。そのために、運動療法やマッサージが盛んになった。」
とされています。その土地、その環境で生活をすることで得た経験的な医学といえます。それが統一され、中医学として現在に至ります。 中医学では、人の健康と病気を、宇宙の万物、四季にともなう自然の変化と深い関係があると考えます。そのため治療は、植物や鉱物などの生薬、灸や鍼などを用い、身体にやさしく自然との調和を図るよう促します。

 中医学の根本的な考えは、陰陽五行学説という思想から生まれました。陰陽五行学説は、古代中国人が生活の中で自然現象を長期にわたって観察し、そこから導き出したものです。まず、陰陽学説が成立し、その後五行学説が成立しました。現在では2つの学説をまとめて「陰陽五行学説」と称するようになっています。これらの学説を基に中医学は発展してきました。陰陽五行説は中医学の生みの親なのです。
 まず初めに、陰陽学説からです。単純に自然界のすべてのものを「陰」と「陽」の2つに分ける考え方です。「陽」は、物事の動的側面を表し、火に代表されるような熱や活動の象徴です。「陰」は、物事の静的側面を表し、水に代表されるような寒さや静けさの象徴です。難しく考えることはなく、反対の性質をもつものなら、それは陰陽の関係と言ってよいのです。「陰」と「陽」は一方の勢いだけが強くならないように、相手を押さえつける関係にあります。たとえば、水が火を消し、火が水を蒸発させるような関係です。そして、陰陽にはもう一つ大切な考えがあります。それは「陰」と「陽」が互いに依存し合っているということです。昼がなければ夜がなく、夜がなければ昼はないということです。「陰」は「陽」が存在しているゆえに「陰」となり得るのです。その反対も言えます。
 また、忘れてはならないのは、陰陽はダイナミックに動いているということです。季節が変わるように、陰陽も大きく変化します。寒い冬が終わると暖かい春が訪れます。陰はやがて陽になり、陽はやがて陰となるのです。つまり、陰陽は反対の性質のものがダイナミックに活動しながら、互いに制約し依存し合っている姿なのです。
 続いて、五行学説です。自然界の物質を5つの要素(木火土金水)に分け、それらの関係を考える方法です。
「木(もく)」は、草や樹木のことで、茎や枝葉がどんどん伸びていく様子から、柔軟に広がる、伸びやかさの象徴です。
「火(か)」は、炎や熱のことで、暑さの象徴で、勢いが強くて上昇しやすい性質を表します。
「土(ど)」は、土のもつ、豊かさや濃厚さ、どこかドロドロとした感じを表します。また、そこから色々なものが生まれたり、つくられたりすることの象徴です。
「金(ごん)」は、金属や鉱物の持つ、鋭くて、乾燥していて、透明感のある性質を表します。さらさらとしていて、清らかさの象徴です。
「水(すい)」は、重くて下方に流れ、地面を固めるために潤いを与える、どっしりとした性質を表します。冷たさや寒さの象徴です。
この5つの性質は、絶妙な関係で、お互いのバランスを保っています。5つの要素に働く力として「相生(そうせい)」と「相剋(そうこく)」があります。「相生」は相手を生み育てる関係で、木→火→土→金→水→木の順に関係しています。たとえば、木が燃えて火がおき、火から灰ができて土を肥やし、さらに土から鉱物ができ、鉱物から鉱水ができて、その水は木を育てるといった具合です。一方、「相剋」は相手を抑制する関係で、木→土→水→火→金→木の順に関係しています。木は土の養分を吸収し、土は土手として水の氾濫を抑え、水は火を消し、火は金属を溶かしてもろくし、金属は木を切り倒すといった具合です。力の弱ったものは「相生」の関係で励まし、強まり過ぎたものは「相剋」の関係でなだめて、バランスをとっています。
 中医学では、この五行の考えを体の働きに持ち込んでいます。
木=肝、火=心、土=脾、金=肺、水=腎といった具合です。ただし、ここでいう肝心脾肺腎とは西洋医学でいう臓器のことではありません。もっと広い概念で、臓器の機能的システムを総括して称したものです。
中医学では、人間は自然の一部であることを強調しています。「陰陽五行説」は自然現象の法則を説いていますが、人間もまたこの学説で説明することができるのです。
 人間の体も自然の一部ですから、冬になれば冷え、夏になれば熱を持ちます。ただし、生命である人間は体を微妙に変化させて、それぞれの季節に対応しています。寒ければ寒いなりに、暑ければ暑いなりに体は順応して個々の生命が営まれているのです。人間の中には自然と調和するシステムが組み込まれているわけです。人間は一定でないからこそ、刻々と変化する自然環境の中で生きることができるのです。中医学は人間の体に一定値を求めず、自然環境と調和できているかという観点で体を診ていくのです。
 西洋医学の場合、内臓の機能がある一定の範囲から外れると病気と見なします。範囲内であれば症状が出ていても異常がないと考えます。しかし、中医学の場合、決まった範囲を求めません。体全体の機能がバランスよく保たれているかを重視します。
 たとえば、下半身が冷えてその分の熱が上半身に上ってくるということは頻繁に見られます。前述した「陰陽学説」を用いて説明するならば、上半身が陽に傾き、下半身が陰に傾いているということなのです。ですから熱症状が出た場合でも、熱だけ診るのではなく、その裏側(背景)に冷えがないかを必ず確認していきます。
 もう一つ例を挙げてみます。仕事や人間関係などのストレスで下痢をしたり、胃が痛んだ経験はないでしょうか。「五行学説」を用いるとこの現象が説明できます。ストレスは「肝」(木)に強い影響を与えます。肝がストレスを丸め込もうと興奮します。機能を高められた「肝」(木)は消化器系である「脾」(土)を余計に剋することになるのです。このパターンで消化器系に症状が出た場合、中医学では「肝」に対してアプローチします。「肝」の機能を抑えることで脾胃(消化器)の症状が緩和されます。
 また、中医学には「未病を治す」という考え方があります。未病とは病気になる前の状態を指します。症状が現れる前も体をよく観察すると、いろいろなメッセージを出していることがわかります。このメッセージを素直に受け取り、病気になる前に病気の原因を解決しようとすうことが「未病を治す」ということなのです。
 たとえば、何となく調子が悪いという漠然とした状態も体のメッセージなのです。東洋医学はそういった漠然とした症状も大切に扱います。また、症状が何にもなくても、お腹を触ってみると冷えや緊張があることがあります。丁寧に問診や体表観察(触診)を行えば、至る所にメッセージが隠されていることがわかります。
 バランスが乱れると、体の弱いところから悲鳴をあげていきます。これが病気です。体質は人それぞれですから、似た環境におかれても人によって症状の出るところは違います。症状にだけ注目してしまうと、その根本を見逃してしまいます。中医学は、根本であるバランスの乱れを整えることによって未病を治すのです。症状はあくまで枝葉と考えます。
 中医学の治療法には異病同治(いびょうどうち)、同病異治(どうびょういち)があります。「異病同治」とは異なる病を同じ治療法で治すことで、「同病異治」とは同じ病気を異なる治療法で治すことです。不思議なことのように思われるでしょうが、症状は枝葉と考える中医学にとってはごく自然なことなのです。
 同じ症状を呈していても、原因が同じであるとは限りません。また、違う症状を呈していても原因が同じであることもあるのです。原因に着目すると、奇妙に思われる「異病同治」「同病異治」が不思議ではありません。
 話は少しそれますが、中医学では病気の本質を治療することを「本治(ほんち)」、病気の枝葉(症状)を治療することを「標治(ひょうち)」といいます。根と枝を区別しているのです。症状が激しいときは苦痛を除くために標を治し(標治)、症状が軽いときには本を治す(本治)のが基本とされています。
 根本治療(本治)しようとするとき、原因が同じであれば当然ツボは一緒(刺激量は個人に合わせます)ですが、原因が異なるときには全く違うツボを使います。本治のレベルで考えると、「○○病に効くツボ」というものは存在しません。私たちは状況によってツボを使い分けます。
*1:ホリスティックともいい、体の局所の異常を治療するだけでなく、体全体の異常や失調、心や環境(自然環境や人間関係を含む)などとの調和をも配慮した医療をいう。

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